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3話 姫の命令と騎士の受難

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2025-12-08 23:51:44

「え? あ。俺は、そろそろ……帰り……ま……」

 ユウが母親に帰りの挨拶をしようとした、その言葉を遮るようにして、クラリスが彼の小さな手を掴んだ。彼女はユウの手を、有無を言わさぬ強引さでグイッと引き、風呂場のある方角へと身体の向きを変えた。

「さ、行くわよ! こっちよ!」

 その様子を、クラリスの母親は穏やかな笑顔で見つめていた。

「ユウさん、すぐに帰るのは諦めなさい。あなたはクラリスを立派に庇ってくれた。そのお礼もしたいわ。それに、汚れたまま帰ったら、お母様が心配されるでしょう?」

 クラリスの母親は、微笑みを絶やさぬまま、テキパキと話を続けた。

「夕飯をうちで食べていくということ、使用人にすぐにお母様に伝えに行ってもらうわ。心配しなくていいわよ」

 そう言うと、母親は返事をする間も与えず、素早く近くに控えていた使用人の方に顔を向け、指示を伝えていた。ユウは、クラリスに手を引かれながら、為す術もなくその流れに飲み込まれていった。

(いや……そういう問題じゃないんだけどなぁ……)

 この村や、一般的な集落において、水浴びの方法は家の事情や地理的な環境によって大きく異なっていた。

 近くに大きな川がある家庭では、そこで体を洗い流すのが普通だった。しかし、川がない、あるいは遠い地域の人々は、井戸から汲んだ冷たい水を使って、水浴びをするのが一般的だった。特に女性は、人目を避けるために井戸水を使って家の中で体を拭く程度で済ませることが多かった。

 そんな中で、自宅に湯船のある『風呂』を備えているのは、クラリスの家のような村一番の裕福な家庭くらいであった。

 風呂に湯を張るには、まず膨大な量の水を井戸から汲み上げる重労働が必要になる。さらに、お湯を沸かすとなれば、大量の薪を消費するか、もしくは高い魔力を持つ魔法使いを雇う必要があった。水を加熱する魔法は、多くの魔力を必要とするため、使いこなせる人材を探すのも難しく、もし雇えたとしてもその対価として莫大な金銭を支払わなければならない。

 そのため、多くの家庭では、風呂という贅沢に金をかけるくらいならば、日々の食事や、すぐに摩耗する衣服などの日用品に金をかけるのが賢明な判断とされていた。

 しかし、クラリスの家は群を抜いて裕福であったため、そんな一般常識とはかけ離れた、大人数でも入れるような大きな風呂を屋敷に備えていたのだ。

 ユウとクラリスが脱衣所に足を踏み入れると、すぐに二人のメイドが入ってきた。脱衣所は、高い天井と磨かれた木材の床が特徴的で、かすかな石鹸の香りが漂っていた。

 二人のメイドはテキパキと、泥まみれになったクラリスの豪華なドレスに取り掛かり始めた。一人が背中の複雑な編み上げを素早く解き、もう一人がフリルやレースの重なりを慎重に剥がしていく。クラリスは少しもじもじしながらも、慣れた様子で腕を上げ、メイドの作業に身を任せていた。

 次々と厚い生地が取り払われ、最後に繊細なペチコートが滑り落ちると、クラリスの可愛らしい下着姿があらわになった。

 純白の薄い木綿生地で作られた下着は、クラリスの透き通るような白い肌に映えていた。胸元を覆う部分は、まだ幼く成長途中の小さな膨らみを、ふんわりと優しく包んでいる。胸の形は丸みを帯び始め、その輪郭は控えめながらも確かな女性らしさの萌芽を感じさせた。それはまるで、まだ固い蕾が、太陽に向かって少しずつ花びらを広げ始めたかのような、幼さと可憐さが同居した姿だった。

 ユウは、その一瞬、言葉を失ってクラリスを見つめてしまった。彼女はそんなユウの視線に気づいたのか、パッと顔を赤く染め、急いで腕で胸元を隠すように身体を抱きしめた。

「な、何見てるのよ!ユウは早く脱ぎなさい!」

 クラリスは、恥ずかしさから少し怒ったような声を上げたが、その声には、照れと微かな動揺が混じっていた。

 ユウが、泥に汚れたシャツの裾を掴み、脱ぎ始めようとしたその時だった。クラリスが急に大きな声を上げ、慌てた様子でユウを制止した。

「ユウ……やっぱり、ちょ、ちょっとまってなさい!貴方たちは、もう良いわ……下がりなさい!」

 クラリスの剣幕に、二人のメイドは互いに顔を見合わせながら、ぺこりと会釈をして脱衣所から退室した。バタン、と木製のドアが閉まり、二人は完全に二人きりになった。

 クラリスは、まだ少し赤い顔をしていたが、もう一度ユウに視線を戻し、少し苛立ったように言った。

「もう、良いわよ……あんたも脱ぎなさいよ……先月も一緒に入ったじゃない」

 クラリスは、露骨に目をそらしながら、そう促した。

「そ、そうだけどさ……」

 ユウは、なんとなく気まずさを感じながらも、ゆっくりと残りの服を脱ぎ始めた。

「早くしなさいよね! 他の子の前では……裸になんかなっちゃダメよ! これは命令だから!! ユウはモテるんだから……」

 クラリスは、腕を組みながら強く言い放った。最後の『ユウはモテるんだから……』という言葉は、ほとんど口の中で呟かれたような小声で、その声には、独占欲にも似た、複雑な感情が滲んでいた。

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